「『山崎梅酒』シリーズは、ウイスキーをはじめリキュールやブランデーなど、先輩たちが磨き上げてきた酒づくりの技術を集大成したような商品です」そう話すのは、同商品の開発を担当する川本憲良さん。川本さんは2018年4月まで、ウイスキーのブレンダー室で原酒開発を担当していました。個性が異なるさまざまな原酒をブレンドして商品化するウイスキーでは、バラエティ豊かな原酒をもつことが大きな強みとなります。そのためサントリーでは、サイズや形状が異なる蒸溜釜の導入やいろいろな樽の使い分けなどにより、長年にわたって研究を積み重ねてきました。
「スコッチウイスキーなどでは伝統的にシェリー樽やバーボン樽を熟成に使いますが、それと同じように日本特有の個性的な樽をつくれないだろうかと。ある意味では日本版のシェリー樽のようなイメージで梅酒樽をつくろうと、梅酒を樽に詰めてみたのが商品開発のスタートでした」と川本さん。梅酒樽(梅酒を熟成させた後の樽)で熟成させたウイスキー原酒は、ブレンデッド・ウイスキーに使われ、世界中のウイスキーファンに話題を提供しました。一方、ウイスキー樽で熟成させた梅酒も驚くほど豊かな味わいの変化を見せて、02年からは「焙煎樽貯蔵梅酒(現在の山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽仕込梅酒)」として、バーを中心に数量限定で発売されるようになったのです。「ベリー系のフルーティな香りや華やかさなど、梅酒とウイスキーには共通する香味もありますが、当然ながらお互いにもち合わせていない、相反するような部分もあります。たとえば梅酒にはしっかりとした甘さや酸味があり、ウイスキーには力強さや樽熟成に由来する長い余韻がある。そうしたお互いの長所が掛け合わされているような、ウイスキーと梅酒の奇跡的な出合いに感動したことを覚えています」お酒好きの方々からの高い評価を得て、現在では定番商品となった「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽仕込梅酒」。川本さんが初めて同商品を飲んだ時の印象はいまも明確です。
「焙煎樽仕込梅酒」の熟成に使われているのは、アメリカンホワイトオークのバーボン樽を一度バラバラにして少し大きなサイズに組み替え、ウイスキーを詰めたホッグスヘッド樽。ウイスキーが染み込んだ樽の成分をより引き出すために、すべての樽には低温でじっくりと樽内部を焙るトースト(焙煎)と呼ばれる熱処理がされています。「熟成のメカニズムには未解明な部分も多く、ウイスキー樽で熟成させた梅酒は一樽一樽がそれぞれに異なる香りや味わいになります。そうした樽ごとの熟成のピークや個性を細かくチェックして見極め、一定の品質になるようにブレンドするといった作業は、ウイスキーづくりと共通する部分があります」と川本さん。「樽熟成によるほのかな苦味や控えめな甘さ、コク深い味わいが焙煎樽仕込梅酒の特長。私自身はロックで飲むのが好きですが、食事と合わせる時などには、ソーダ割りにするのもよいですね」とお薦めの飲み方を教えてくれました。