 |  イケムの偉大さとユニークさにはいくつかの要因があることは間違いない。まず第一に、独自の微気候を伴う完璧な立地条件がある。第二に、リュル・サリュース家は、97kmにも及ぶパイプを用いた精巧な排水システムを設置したこと。第三に、ディケムには、経済的な損失やトラブルを斟酌せずに、最も良質なワインだけを生産しようという狂信的とも言える執念が存在するだ。ディケムが、近隣の畑に比べてこれほど優れている最大の理由は、この最後の要因にある。
ディケムでは、1本のブドウの木からたったグラス1杯のワインしかつくらないと誇らしげに語られる。多くの場合、イケムに6週間から8週間滞在し、最低でも4回はブドウ畑をまわる150人もの摘み手のグループによって、ブドウが完璧に成熟するのを待って一粒一粒摘まれる。1964年には、摘み手たちは、13回にもわたって畑をまわったが、不向きと見なされるブドウを収穫しただけで、結局このヴィンテージではまったく何も生産しなかった。ワイン醸造りをしているシャトーのなかで、収穫全体を自発的に格下のワインにまわすところ、あるいはそれが経済的に可能なところはほとんどない。
こうした品質への情熱的なこだわりは、何も畑に限ったことではない。ワインは新樽の中で3年以上かけて熟成され、全収穫量の20%が蒸発により失われる。リュル・サリュース伯爵が瓶詰めできると見なしたワインでも、最良の樽からだけ厳しく選別される。1975年、1976年、1980年といった秀逸な年には、樽の20%が排除された。1979年のような困難な年には、60%のワインがはずされた。1978年のような手に負えないヴィンテージでは、85%のワインがイケムとして売るのにふさわしくないと判断された。私の知る限り、これほど無情な選別過程をとり入れているシャトーはほかにない。ディケムでは、芳醇さが少しでも失われることを恐れて、決して濾過処理を行わない。
ディケムはまた「Y」と呼ばれる辛口のワインをつくっている。これは特色のあるワインであり、ディケムらしいブーケを持ちながら、樽香が強く、味は辛口で、通常は非常にフルボディ、際立ってアルコール度数が高い。力強いワインで、私の舌にとっては、フォアグラのようなコクのある食べ物と一緒に出されるのが最高である。
ディケムはほかの有名なボルドー・ワインと違って、プリムール、つまり先物で売られることはない。このワインは、通常はそのヴィンテージの4年後に、極めて高い価格で出荷されるが、費やされた労力、リスク、そして厳格な選別過程を考えれば、最高の値札に値する数少ない高級価格ワインのひとつである。
以上ロバート・パーカー氏のコメント | |  |  ペッパーコーン氏はディケムについて、『蜂蜜に似た強いブーケととろけるような甘美な味わいと優雅な風味を備え、色が徐々に淡い金色に変わっていくディケムは、ソーテルヌの真髄といえよう。このワインを飲めることはいかなるときであろうともひとつの特権なのだ。』 | | |  | イグレック・ド・シャトー・ディケム 2013年 貴腐ワインの最高峰シャトー・ディケムが手がけた辛口白ワインが、「Y(イグレック)」です。
「D'YQUEM」から「Y」の字をそのまま受け継いで名前にしたこのワインは、味わいもディケムの血筋をしっかりと感じさせる造りになっています。
イグレックは、天候不順や収穫したブドウが充分な貴腐の状態にない年の場合にのみ造られるため、安定した供給がありません。また、リリースされた場合でも、その量はごく僅かなため、本国フランスでも手に入れるのが困難なワインです。
辛口ながらたっぷりとした果実味を持ち、甘い貴腐ワインの香りをほのかに纏った味わいは、セミヨンとソーヴィニヨン・ブランから造られており、芳しい樽香と力強いアルコール感が非常に印象的です。 | |  | |